見切れ写真家元のおいらが無責任に思ったこと

ノンジャンルのブログを書きたくて始めたブログ

夏支度

f:id:kumaya77:20150708192530j:plain

今週のお題「夏支度」

ネタ切れでつらいから、今週のお題に頼ってみる。

 

私の夏支度といえば、ラジオ体操の準備。

小さい頃からの週間で、夏休みにはラジオ体操をやるものだと思い込んでいる。

おいらが小学生の頃は近所に子どもたちが多く、うちの町内のラジオ体操だけで何十人も集まってきていた。

町全体だとかなりの数の子どもがラジオ体操をやっていただろう。

普段は7時まで寝ているのに、夏休みになると早起きしなければならないのはなぜだろう?という疑問を持ちながらも、基本的に文句も言わず毎日ラジオ体操に行っていた。


6時20分頃に会場に着くと、世話人のおじさんがすでにラジオを付けて待っていた。

小学生にとっては全く興味が持てない為替と株の値動きとか全国のお天気などを、ボケーっとしながら聞いていると徐々に友達があつまってくる。

皆一様にボケーっとした顔をしている。

男子のほとんどは寝癖全開だった。

ほとんどの人が首から毛糸やたこ糸でラジオ体操のカードをぶら下げている。

少々いきがっている6年生は、オシャレのつもりなのか、チェーンでカードをぶら下げていたのを覚えている。

子どもの頃はカッコイイと思ったのだが、今考えると大笑いだ。

 

ラジオ体操の歌の後にラジオ体操第1が始まる。

微妙に動きを間違えているおじさんに向かい合って、みんな黙々と体操をした。

ラジオ体操第2が終わる頃になると、男子を中心にジワジワと前に出始める。

誰よりも先にハンコを押してもらうためだ。

 

最後の深呼吸が終わり、アナウンサーの声が聞こえた瞬間にダッシュでおじさんの前に並び、ハンコを押してもらうのだ。

今考えると順番なんてどうでも良いことなのだが、なんとなく競うのだ。

そして、なぜか女子はその争いには加わらない。

 

夏休みの終わりにはハンコの数に応じて賞品がもらえた。

参加賞は鉛筆一本だけだったが、たくさん出席するとノートや歯磨き粉がもらえた。

子ども歯みがきのイチゴ味だった。

野性味溢れる友達が、歯磨き粉をもらったその場で開封し、食べ始めたのは今でも忘れられない衝撃的な場面だ。

美味しかったらしい。

ちなみに津軽では歯磨き粉とは言わない。

『ネリ』

という。

もしかしたら津軽だけじゃ無いかな?

全国共通だといいなあ。

 

中学生になると別に取り決めは無いのだが、何となくラジオ体操は卒業となる。

おいらも小学校6年生の夏休みを最後にラジオ体操を卒業した。

 

しかし、うちの父だけはずっと続けていた。

説明が遅れたが、ハンコ押しのおじさんはうちの父だったのだ。

おいらは末っ子なので、もう我が家のだれもラジオ体操には参加しないのだが、代わりにやる人がいないという理由で父はずっとラジオ体操の世話役を続けた。

 

おいらが大学を卒業し、地元に戻ってきても父はまだ、ラジオ体操の世話役をやっていた。

ある年、父がそろそろラジオ体操を止めようかと言い出した。

子どもの数がが減ってきて、参加者が減ってきたからだ。

もう十分やったと思ったので、家族もそれに同意した。

その年の夏休み最終日、最後のラジオ体操に出かけていった父はとても寂しそうだった。

最後のラジオ体操を終えて父は帰ってきた。

なんか微妙な表情をして、手に小さな包みを持っていた。

その包みの中には、ハンカチと手紙が入っていた。

「おじいちゃん、いつもラジオたいそう、ありがとう。」

と書かれた手紙をみながら、父は

「まだ、やめられないな」

と嬉しそうな顔で言った。

その後、

「おじいちゃんに見えるのか…」

と寂しそうにつぶやいた。

 

そのうちおいらが結婚し、孫が成長し、ラジオ体操に参加するようになると、父は本当に嬉しそうだった。

名実ともにラジオ体操のおじいさんになったのだ。

 

ある年の春、父が病に倒れた。大きな手術をしたが、夏前には回復し、何ごともなかったかのようにラジオ体操のおじいさんの役目を続けていた。

 

翌年、病が再発した。もう、手術はできないと主治医に言われた。

父は徐々に弱っていったがラジオ体操は止めなかった。

かなりつらそうだったので、

「かわろうか?」

と言おうと思ったが、なんとなくそれを言ってはいけない様な気がして言えなかった。

父は、なんとか夏休みの最終日までラジオ体操をやりきった。

それが父の最後のラジオ体操になった。

 

父に何を言われたわけでも無いのだが、おいらは後を継いでラジオ体操のおじさんをやっている。

 

父がやっていた頃よりも、さらに子どもの数が減ってきている。

おいらが夏休み中に出張等で留守にするときは、息子が前に立ってラジオ体操をしてくれる。

普段はちゃんとやらないくせに、おいらがいないときは前に立ちたがるのだ。

 

今年の夏で息子がラジオ体操を卒業する。本人は中学生になっても続けると言っているがおそらく無理だろう。

 

おいらも父がそうしたように、我が子がラジオ体操を卒業しても、ラジオ体操のおじさんを続けるつもりだ。

ラジオ体操のおじいさんになるまで。